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F-85はアメリカのマクドネル社が開発した寄生戦闘機(パラサイトファイター)である。
愛称はゴブリン、グレムリン(C型)


概要
従来の戦略爆撃機は高高度を飛行することで敵戦闘機による迎撃をある程度回避することが可能であったが、ジェットエンジンを搭載した戦闘機の登場で高高度での優位性は薄れてきていた。
1946年に初飛行した戦略爆撃機B-36は、兵装を満載状態でも4000kmを超える戦闘行動半径を有していたが、それに付随できる護衛戦闘機が存在しておらず、その問題を解決するために開発されたのが寄生戦闘機F-85である。
機体の開発はB-36とほぼ同時に始められ、試作機のXF-85の1号機が完成したのは1947年10月のことであった。
1949年にはYF-85Aが初飛行し1950年2月よりF-85Aとしてアメリカ空軍で運用が開始された。
極端な機体形状故に操縦性には難があり、空中戦で十分な性能があるとは言いがたかったが、それでも高価なB-36を護衛する手立ての一つとして有用と判断されたとされる。

陸上基地で母機のGB-36に搭載(1)され、離陸後に上空でF-85のパイロットは自機に搭乗し待機する。
飛行中はエンジンに空気が流入するため、外部動力を使わずにエンジンを始動することができた。
飛行時間が短かさから原則的には敵機の迎撃を探知してから発進するが、エンジン始動から発進まではアームを展開して切り離すだけなので、練度の高い部隊は約1分強で発進が可能だったという。
母機から切り離されると機首を下げロケットモーターに点火し、約30秒の燃焼で緩降下しながら時速約950km/h超まで加速することが可能。(2)
機内の燃料タンクだけでの滞空時間は約40分であったが、増槽を装備した状態で約1時間程度まで滞空時間を伸ばすことができた。(3)


機体
爆弾倉に納めるため機体は極限までコンパクトに設計され、単座型の全長はわずか4.5mほどしかない。
その極端に短い全長故に直進安定性は劣悪で、試作型のXF-85は当初4枚だった安定板が5枚に増え、最終的に6枚まで増えた。
量産機では数は変わっていないものの、一般的な機体の垂直尾翼にあたる胴体中心線上部の尾翼が大きく増設され、方向舵もこの尾翼へと移された。
これは元々動翼が装備されていた斜め上に伸びる尾翼の付け根付近にロケットモーターを装備すると舵面が干渉してしまうためである。
水平尾翼にあたる尾翼は主翼の真後ろにある2枚で、B型からは全遊動式に変更されている。
主翼端にある安定板は昨今の抵抗減を狙ったいわゆるウイングレットではなく、小さすぎる機体が故に安定板の面積を稼げなかったがための苦肉の策である。

機首前端の角のように生えたフックは固定式(4)で、機体の懸架方式を変更したためXB-85 2号機までのような巨大なものではなくコンパクトな形状になっている。
これは従来のフックが風防に近すぎたことから試作2号機が回収時に衝突しキャノピーを損傷した件を受けて、出来るだけ風防から距離を取り、なおかつできるだけ視界を確保できるよう改良されたものである。
胴体中腹には左右に棒状の突起があり、これが母機のトラピーズについたラッチで引っかかる事により機体を懸架している。
なお、この突起は当初引き込み式であったが信頼性向上のためB型以降は固定式に変更された。
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GB-38に懸架され発進直前のF-85Dと機体に格納された状態のTF-85A

複座練習型のTF-85Aは胴体が延長され、垂直尾翼と主翼も単座型よりも拡大されている。
試作機には胴体下に緊急着陸用のソリを装備していたが、実戦での運用時は取り外された。
これは、戦略爆撃機の護衛という任務の性格上、機体の切り離しと回収は目標上空ないし、その近辺で行うため、必ずしも着地に適した場所があるとは限らないこと、仮に軟着陸に成功しても機体の回収は困難なことに加え、射出座席の性能も向上してきたことで緊急時には機体の投棄が前提となったためである。
なお、訓練時には緊急時を考慮してスキッドを装着している。




派生型
XF-85
試作機型。
合計6機の試作機が作られ、安定板の数や大きさ、主翼の折りたたみ機構(後にキャンセル)、空中発進後のロケットモーターによる加速試験機など機体によりそれぞれ形態が異なる。
試作2号機(46-6522)は機体収納時にEB-29と空中衝突、キャノピーを破損しミューロック湖に不時着。5号機(46-6525)はロケットモーター試験時に片側のロケットが点火せず制御不能となり墜落して失われている。(5)

YF-85A
量産原型機。
XF-85で得られた試験結果を元に機体の各部が変更されている。3機生産。

F-85A
初期量産型。
武装は機首に12.7mm4門
エンジンはJ34-WE-22を搭載。

TF-85A
A型の複座練習型。
胴体が約1.2m延長され複座となり、安定性向上のため主翼と垂直尾翼が延伸されている。
副次的効果ではあるが胴体が延長されたことにより単座型よりも安定性が増し、操縦は幾分ましであったと言われている。
武装はそのまま搭載されているため、実戦に参加した例もある。(6)
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T-85A



F-85B
A型にレーダー照準装置A-1CMを搭載した機体。
水平尾翼が全遊動式に変更されている。

F-85C Gremlin(グレムリン)
胴体や各翼の拡大、エンジンをアフターバーナー付きのJ34-WE-32に換装するなど全面的な改良を行った機体。
武装はM39 20mm機関銃6門と、試験的にAIM-9Bを搭載した機体もあった。
機体名こそF-85を冠しているがF-85A/Bとの部品共通性はほぼなく、ほとんどの部分が再設計されている。(7)
胴体下には増槽を2本装備可能。
大幅な性能向上により1000機を超える発注がなされる見込みだったが、開発期間が長く、その間に母機であるB-36自体の退役が始まったことと、空中給油機が普及し始めたことが影響してわずか18機で生産は打ち切られた。

F-85D
B型の改修型。
APG-30測距レーダーを装備し、武装はM39 20mm機関銃を機首に2門胴体下部に2門。
エンジンをJ34-WE-36に換装し出力が向上している。
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F-85D

RF-85B
F-85Bに写真偵察機材を搭載した偵察型。計画のみ。




(1)GB-36のF-85搭載スペースは主翼より前部の胴体に2箇所ある。
後部胴体に搭載スペースがないのはGB-36の巨大な機体による乱流の影響を避けるためである。

(2)ロケットモーターを使用することにより発進後の加速時間を短縮することができ、それに費やす燃料も節約できるため滞空時間が伸びた。

(3)増槽をつけると運動性が更に落ちるため搭載しない場合がほとんどであった。

(4)緩衝のためわずかに動くように出来ているが、引き込み式ではない

​(5)試作5号機のロケットモーターは主翼半ばに搭載されており、片側が点火しないなどのトラブルが起こると急激なヨーイングモーメントを発生して制御不能となる欠陥があった。
ロケットの緊急投棄装置もあったが墜落時は操作が間に合わなかったとされている。
以後は機体構造を強化して胴体後部に搭載する形式に改められた。

(6)朝鮮戦争勃発時にA型の生産が間に合わなかったことと、前述の通り操縦性が若干向上していたことで試験的に投入された。

(7)当初はF-88の名称を使用する予定であったが、朝鮮戦争による大幅予算削減に対応するため、あくまでF-85の派生型として開発された。



ギャラリー


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