IMG_0423



MiG-31SMはミコヤン・グレヴィッチ設計局が開発したソビエト連邦が防空軍(現ロシア連邦 航空宇宙軍)向けに開発した迎撃機MiG-31Sの近代化改修型マルチロール機である。


概要
1960年代後半、大陸間弾道ミサイルの進歩や地対空迎撃ミサイルの進歩により高高度高速度侵攻による爆撃・偵察は時代遅れとなりつつあり、代わってレーダー網を掻い潜る低高度による侵入が多用されはじめていた。
高高度を高速で侵入してくる機体を迎撃することに特化したMiG-25は自機より低い高度の目標を捉えるシュート・ルックダウン能力の乏しいレーダーを搭載しており、エンジンも低速・亜音速では燃費の悪いものだった。
また、アメリカがMiG-25に対抗する戦闘機開発を進めていることもあり、それに対抗しうる新型戦闘機(後のMiG-29やSu-27)の開発が急務であったが、それらの機体の開発には時間を要することが明確であったため、MiG-25を基礎とした戦闘機の開発を決定、1966年にミコヤン設計局は2基のRD36-41Mターボジェットエンジンを搭載したE-155M複座可変翼マルチロール機の開発を開始した。
この機体はMiG-25の可変翼案であるE-155Pの発展型であるE-158の更に延長線上にある機体で、E-155MP(518-21)の名がつけられた。
1968年に完成した試作機は低速域での安定性、STOL性と迎撃機としての加速性を両立するため可変翼を採用し(1)、一枚の垂直尾翼に直進安定性を確保するためMiG-23のような折りたたみ式の大型ベントラルフィンを2枚有していた。
後に機構の簡略化と軽量化を狙ってか、試作2号機より量産機と同じく双垂直尾翼とMiG-25と同程度の固定式ベントラルフィンの方式になっている。
1975年に量産初号機が初飛行し、1982年に運用を開始。現在までに述べ400機以上が製造され、現在も運用中。
いくつかの同盟国に輸出されたMiG-25と違い、ソ連軍(ロシア軍)以外での運用はされていない。


機体
MiG-25を基本としているため、機体形状は似ている部分があるが共通部分はほぼない。
MiG-25ではマッハ3級の断熱圧縮に耐えるため構造材にニッケル鋼を多用したが、本機ではチタン合金やアルミニウム合金の割合を高め、耐熱限界による速度性能をある程度犠牲にして、可変翼機構等による重量増を最小限に抑えている。
コックピットは複座となり、後席にはレーダー操作員が搭乗する。
初期型には後席のキャノピー上部にペリスコープが装備され、操縦系統も存在したが、SM型より視界向上のためキャノピーの枠を減らしたことに伴いペリスコープを廃止(代わりにバックミラーを装着している機体もある)、同時に操縦系統も廃止された。
なお、操縦桿があった位置にはレーダーの操作コントローラーを設置。
可変後退翼の主翼は18度~65度の範囲で可動する。
初期のP~S型までは従来機同様手動による後退角の制御であったが、M型(開発中止)とSM型はF-14と同じくコンピュータによる後退角と前縁、後縁フラップの自動制御となっている。(2)
なお主翼可動部のパイロンは可動式で、常に一定の角度を保つようになっている。
エンジンはアビアドビガーテル D-30F-6ターボファンエンジンを搭載し、MiG-25のR-15BD-300より燃費と出力の向上が図られている。
初期のP型時代に西側に機体の情報が漏れ、S型よりレーダーをチホミーロフNIIP製ザスロン-Aを搭載。
ザスロンは航空機としては初のパッシブフェイズドアレイレーダーであり、索敵距離は200kmを超えるとされMiG-29やSu-27を超える目視外戦闘能力を有し、さらに前線に展開してデータリンクを介し味方機へ目標を指示する小規模なAEW&C機としても運用が可能である。
M型/SM型ではザスロン-Mを搭載し、400kmを超える索敵能力、24目標同時追尾、6僕表同時交戦可能などの能力向上が図られている。
強力なレーダーに加え機首下部には収納式のIRST(STP/TP-8)を装備しており、レーダーの機能を補完している。
なおM型、SM型は固定式のOEPS-31に変更され能力向上が図られている。


兵装
固定兵装としてGSh-6-23 23mm ガトリング砲を右胴体下側面に搭載。
胴体下に長射程空対空ミサイルのR-33(S)、R-37、Ks-172、主翼のパイロンに中射程空対空ミサイルR-40、R-77(SM型のみ)、短射程空対空ミサイルR-60、R-73をそれぞれ装備できる。
対地攻撃能力を獲得したSM型ではKh-25MP、Kh-29T、Kh-59などの空対地ミサイルや、KAB-1500、KAB-500などの誘導爆弾も運用可能となった。


派生型
MiG-31P
1979年量産開始の初期生産型。 機体の情報が西側諸国へ漏洩したため少数で生産が打ち切られた。全機退役済み。

MiG-31S
P型の情報漏洩を受けて改修され量産機のメインとなった型。ザスロン-Aレーダーを搭載し、航法システムのアップロードや空中給油プローブを装備して長距離長時間の任務が可能になっている。

MiG-31R
電子偵察型。胴体下部のR-33ステーションにECMポッドを装着している。試作のみ。

MiG-31M
レーダーをザスロン-Mに換装する事をはじめとした電子機器の一新、グラスコックピット化、対地攻撃能力の付与、固定翼化、デジタルフライ・バイ・ワイヤ化などの大幅な近代化がされた型。
120機以上の新造が計画されたがコスト高により試作機7機が生産されたのみで調達中止。

MiG-31SM
M型の試験で得られた結果を従来機のS型にフィードバックした近代化改修機。レーダーを始めとするアビオニクスはM型に準じ、コックピットもグラスコクピット化された。
対地攻撃能力を付与されたことで事実上マルチロール機としての運用も可能になった。
機首下部に搭載されていた収納式のIRSTは固定式のOEPS-31に変更されている。
既存のS型を順次SM型に改修する予定である。



(1) 低高度侵攻が主流になりつつあったが、アメリカのSR-71やB-70など、マッハ2~3超級の戦略機も現役であり、低空、高空のどちらの迎撃にも対応ができる機体が必要とされた
(2)イランにおけるイスラーム革命以降、ロシアからの兵器支援供与と引き換えにイラン空軍のF-14をソ連側が技術調査し、本機にフィードバックしたものと思われるが真偽は明らかになっていない



ギャラリー
IMG_0700
IMG_0870IMG_0673b
IMG_0685IMG_0460IMG_0531
IMG_0584
IMG_0616












このモデルの製作記はこちら